2024年11月13日(水)
地域の担い手農家と連携し、「会津湯川米」のブランド化を進める湯川村・佐野村長と、地域ブランド米のアドバイザーとして地域活性化に尽力し、多数のメディアで発信している五つ星お米マイスターの西島豊造氏が初対談。
村長自らが、お米のプロに湯川米のブランド化や、これからの米づくりについて伺いました。今回はその一部を記事としてお届けします。
村長:
湯川村では、令和5年より、村独自の栽培・食味基準を設け、湯川米の更なるブランド力の向上を目指しているところですが、西島さんから見て湯川村の印象や、湯川米のブランディングの方向性をどの様にしていったらよいのか等、お聞かせいただけますか?
西島:
湯川村という所はちょっと特殊で、観光で立ち寄る村ではなく目的を持って行かなければ立ち寄らない場所になりますから、消費者にはなかなか知られない産地ですよね。だからこそ知名度アップは必要ですね。
村には道の駅があって、通り道の途中ちょうどいい休憩場所ですよね。でも、その道の駅でさえ湯川村なんだとは皆さん知らなかったりする。まず、知名度アップは絶対必要になってきますよね。
あの道の駅からは見渡す限り魅力的な田園風景が広がっています。ロケーション的にも素晴らしい。あの田んぼは守りたいなって感じがしますよね。
村長:
そうですね。私たちも、あの風景は守りたいと強く思います。そこが村の特徴でもありますから。
西島:
そうなんですよ。でも、あの田園が荒れてくると、非常にこう寂びれた感じが強くなるので、今の田んぼのまま、そのまま維持していただきたいな、という思いがあるんです。
昨今の異常気象や消費者の変化などにより、お米づくりは難しい時代になっているかもしれませんが、環境の変化に対応した強いお米づくりを狙っていく、そんな作戦が必要な気がします。
村長:
そうですね。
西島:
これから必要なのは、生産農家や地域がより元気になるために、地域一体型で取り組む農業が必要になってくると思うんですね。そうなると、やはりブランディングというものが必要ですね。湯川村というネームバリューを高め、ブランドを地域の宝物に育てられれば、今までとは違う展開がある気がします。
村長:
湯川村のコシヒカリは、他とはちょっと違うよ、という評価をいただいています。湯川村は、特徴的なお米づくりの適地であることが理由ですが、加えて環境にも配慮した優しいお米ということでブランド化を進めています。
西島:
あの独特の環境をそのままブランディングに持っていけばいいと思うんですね。産地としての特徴がある湯川村は、他のエリアよりブランディングがしやすいんじゃないかって気はするんですね。
まず、湯川米がどういう存在なのかってことをはっきり教えていかないと、やっぱりお米の販売には繋がりにくい。
福島県は米どころですし、その県内の会津も米どころってイメージを持っている方が多いと思うのですが、『福島県産のお米を買っている』『会津産のお米を買っている』って感じで、決して『湯川村産のお米を買っている』という認識がないんですね。
だから、これからのブランディングに必要なのは、会津の中の『湯川村』をはっきり言わなきゃならないっていうことなんですよ。これからの時代は、差別化であるとか、担い手確保や地域活性化のために、やはり産地をちゃんと言わなきゃならない、というのがありますね。
村長:
湯川村は、「米と文化の里湯川村」をキャッチフレーズにPRをしています。国宝の仏像が三躯安置されている勝常寺があり、そういった歴史的な特徴もある村ですから、それも含めて展開したいですね。
西島:
そうなんです。村の歴史は長いのに、それが活かされてない。もっともっと歴史も含めて『色』を作っていかなきゃなりませんよね。
それから、地元の伝統的な料理も復活しなきゃなりませんよね。漬物文化や保存食文化、その産地のお米に合うご当地の食材を活かして、『湯川米はこんな食べ方が美味しいですよ』、という提案をされていないんですよ。それはもったいない気がします。
村長:
それもそうですね。湯川米の食べ方、それに対する美味しいおかずはこれですよ、としっかり伝えたいですね。
西島:
そうです。だから湯川村としては、こういう考え方でこういうお米を作っています。その中でこんな特徴のある米が生まれました、このお米に合う食べ物はこれですよ、ということを上手に宣伝されるといいと思います。
村長:
これは、やはり村全体で考えていくことが必要ですね。
西島:
はい。地域を挙げて米どころ湯川村として、これから新しいブランドを作るんだって意識を持ち、みんなで考えて、『これが湯川米の特徴ですよ』って言い切ることができれば強みになると思いますね。
西島:
今、お米にとって救いなのが、小学校低学年から高校生ぐらいまでに、お米好きが多いことなんですよ。
それはなぜかというと学校給食です。私たち世代はパンでしたが、今の世代、学校給食というのは、みんなお米なんですね。お米の美味しさや食べ方とか、大人よりもよく知っているんですよ。
彼らがお米を自分で買うようになった時には、市場が変わってくる可能性はあるんです。
ただし、それは10数年後なんですよね。それまでに、生産地がブランド化をしたりして、次の時代に繋いでいかないと、その時代が来なくなってしまう。それまでに生産地が耐えられるかどうかは課題ですね。
村長:
湯川村の学校給食も地元のお米を使っていますから、子供たちは本当においしいお米を食べています。栄養士さんがお米に合ったおかずを作って、それをたくさん食べていますから、今の子供たちはお米から離れられない世代になってくると思いますね。
西島:
そうですね。そういう世代がこれから来るんですよね。その彼らに、ちゃんとお米を供給できますか?というのがこれからの課題になってくるということですね。
湯川米と消費者の接点づくり
村長:
幅広い消費者に認められるようなお米に育てていくためには、まず消費者に味わっていただくことが必要だと思いますが、どんなふうに味わっていただくとよいのか、何かお考えはありますか。
西島:
そうですね。まず、湯川米の美味しさを分かってもらうためには、そのご飯を食べてもらわなきゃいけないですよね。
ただ、食べてもらう時にイベントみたいにやるとなると、やはり場所とか予算がかかりますよね。となると、道の駅の利用というのが一番魅力的だし効果的だと思います。その中で『おにぎり』をお出しするのはいいのかな、という気はするんですよ。
村長:
湯川村でも毎年、新米祭りというのをやっていまして、1,200人くらいの方が訪れます。そこでも、おにぎりを提供するんですけど、これがかなりの人気なんです。
西島:
何種類かのお米を食べて、その特徴を分かってもらうというのもいいですね。美味しいか美味しくないかはその人の好みなので、そこはあまり気にしなくていいんですけど、違いを分かってもらうことに意味があると思います。
あと、おにぎりって、どちらかといえば皆さん締めるんですよ、ギュッと。でも、今は、フワッとしたおにぎりの方が人気なんですね。
湯川村のコシヒカリは、しっとりふっくら柔らかめ、甘めっていうのが魅力なので、その魅力を活かし、フワッとした食感のおにぎりを食べてもらうのも、面白い気がします。
村長:
口の中でほぐれるっていう感覚ですよね。
西島:
そうです、そうです。おにぎりを通して、湯川米の特徴を活かした握り方、食べ方が提案できれば多くの人が反応する気がします。
消費者も世代交代をどんどんしていて、消費者の好みも変わっていっているので、消費者目線を持って、商品開発や食べ方の提案などされた方がいいと思います。
村長:
最後に、湯川米について、また、食べ方などについてご意見があれば伺いたいのですが。
西島:
会津全体にも言えることですが、湯川村のお米は粘りがあって、柔らかくてしっとりして甘みがあるのが特徴。
今は炊飯器の性能がよいので、炊き方は炊飯器に委ねてしまってもいいのですが、より粘りや甘みを出したければハイパワーにすればいいのね。柔らかいなと思ったらあっさりモードに切り替えてくれれば、湯川のお米の良さが活きます。
この炊き方や炊飯器の使い方も教えなきゃダメですね。土鍋においても浸漬をちゃんとやることであるとか、火加減も、自分の好みでちゃんと調整するっていうことを教えてあげなければ、実は他のお米との差がなくなってしまうんです。
会津といっても、『湯川村のお米はちょっと違うんですよ』ということを分かってもらうためには、最適な炊き方だったり、お米本来の特徴を言い切ってもいいんじゃないかという気がします。