2026年2月17日(火)
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なぜ湯川村の米は美味しいのか。
それは土や水だけでなく、霧が立ちこめる盆地特有の気象、川が運んだ粘土質の土壌、そして先人たちが築いてきた営みの積み重ねにありました。
福島テレビの気象予報士・斎藤恭紀氏と佐野村長が、「米づくりと気象」をテーマに対談。
温暖化が進む時代における品種改良、スマート農業の導入、担い手育成、そして移住政策まで。
対話から見えてきたのは、“変わらない美味しさ”を守るために、変わり続ける村の姿でした。
今回はその一部を抜粋して掲載します。
【斎藤】
それでは今日は、お米作りと気象ということをテーマに、佐野村長とお話をしていきたいと思っております。佐野村長、よろしくお願いします。
【村長】
こちらこそよろしくお願いします。
【斎藤】
湯川村にとって、お米というのは、村の誇りでもありますか?
【村長】
そうですね。これは一番の自慢です。村のキャッチフレーズが『米と文化の里、湯川村』ということで、米が一番初めに来ている。米はこの村の生業の元でもあります。本村は、面積が16.37平方kmという、福島県内で一番面積の小さい村なんです。ヘクタールに直すと1,637ヘクタール。
※耕地面積は1,090ha(総土地面積の66.6%)。そのうち水田面積は91.4%

【斎藤】
現在、湯川村の大きな宝となっているのは、お米なんですが、この湯川村というのは、古くからこの場所で、多くの方が農家をやられていたという場所なんですよね。どれぐらいの歴史があるんですかね?
【村長】
これは会津一円が同じだと思いますが、穏やかな縄文時代から、弥生時代に稲作が日本に入ってきて米を作ってきたわけですが、昔から稲作に向いた土地だと思いますので、我々の先祖も、古くから米を作ってきたのだと思います。
【斎藤】
この会津で作られたお米というのが、江戸の古い時代から財産として会津藩を支えてきたのでしょうかね?
【村長】
間違いないでしょうね。会津地域は米どころですから、お米は昔からこの地域の支えになってきたと思いますね。
【斎藤】
この地域でずっと続いてきた米づくりですが、昔から『この湯川のお米は美味しい』ということで現在まで続いていると思います。先人たちは、その品質を守るために、様々な知恵を出してやってこられたと思いますが、その点はいかがでしょうか?
【村長】
やはり米は土づくりから入ります。土壌は基本的に恵まれた土質であるわけですが、昔だと稲藁を堆肥にして、それをまた田んぼに還元していくという土づくりをしてきました。 今も耕畜連携ということで、畜産も振興しながら牛からの堆肥、そういうものを田んぼに入れ還元したり、今も昔も土づくりには力を入れてやっております。
【斎藤】
いまSDGsっていう言葉がありますが、持続可能な農業を昔からやられているんですね。それはもしかしたら先人たちが、この豊かな大地を守っていくために、環境をきちんと保全していこうとか、土を守っていこうという思いが強かったのでしょうね。
【村長】
そうですね。やはり美味しい米は一朝一夕で作れるわけではないので、農家の方々が堆肥を投入して、いい土壌を作って。そして、お米ですから、八十八の作業があるわけですが、それらを丁寧に行い丹精込めて作ってきた。それが結果的に、今の湯川村の美味しいお米につながっているんだと思います。
【斎藤】
いま八十八というお話がありました。米って八十八って書きますよね。ものすごく手間をかけなければ美味しいお米が作られないという。やはり、湯川村の皆さんは、我慢強さだとか、そういうものがきっとあるかと思います。我慢強い人たちが、村の中で協力し合って助け合い、お米作りをしてきたと思います。いかがですか?
【村長】
その通りですね。私が小さい頃、『結い(ゆい)』ということで、自分の家族だけでは田植えはままならないので、近所の方や町の多くの人が手伝いに来てくれて、10数人くらいで、一斉に田植えをしたり、稲刈りをしたり。そんな結いの文化もあって、水田を維持してきたんですね。八十八の作業の中では苗半作って言うんですが、 苗作りがやはり大変で、種籾を蒔いて、そして30日間ハウスの中で育てて。その苗を5月の中旬くらいに田んぼに移植するわけですが、それがまた大変難儀なわけでありまして、そこを機械化しようということで、スマート農業、これを推奨していまして、苗を作らずに5月の中旬くらいに、代かきをしながら直接田んぼに種を蒔く、という取り組みも行っています。
【斎藤】
最近の問題点は米価が大きく左右するというところと、あと何といっても天気だと思うんです。これは私の得意な分野ですが。
【村長】
ええ。そうですね。これは私もお聞きしたいところです。
【斎藤】
村長、昔と比べて今の天気はどうですか?
【村長】
暑いですよね。私が小さいときには、本当に気温が30度超えることはあまりなかったかと思います。 高くても29度とか。今は 35度超える猛暑日が続くというような状況なので、やはり米の品質、収量に影響があるなと思います。3年前の本当に暑くなったときには、収量も悪い、品質も悪いということになりましたが、少しずつ学習し技術的にも対応してきています。昨年は会津管内でも 一等米が94パーセント、湯川の米はそれよりも高い一等米比率でありましたので、暑くても品質が良いものを作れるようになってきています。
【斎藤】
3年前のあの猛暑のときって、一等米の比率が確か福島県では8割だったと思うんですよ。
【村長】
そうですね、昨年が9割を超えた。3年前はやっぱり低かったです。
【斎藤】
村長、昔の夏って、例えば田んぼを渡ってくる風とか、夏場でも結構冷たかったですか?また、エアコンがなくても過ごせましたか?
【村長】
そうですね。エアコンがなくても過ごすことはできました。団扇で十分。
【斎藤】
昔はそれで十分だったのに。今はもうエアコンがないと暮らせない 。それは天気が変わってきているということなんです。

【斎藤】
ここからは、実際に『空ネット』という番組で使っている資料も使いながら、今日はまるでテレビ番組のように村長に説明をさせていただきます。
まず、『湯川村のお米はなぜ美味しいのか』という話題です。湯川村の美味しいお米の秘密についてお話ししていきます。
村長、三ノ倉高原から見た会津盆地。 霧、出ますか?
【村長】
出ますね。霧が出ると晴れないですよね。ちょっと北上して隣の河東町の方へ行くと、ほんと青空になっているんですよね。湯川村の方が霧が出やすいと感じている。
【斎藤】
なぜ霧が、会津若松周辺、特に湯川村に出るのかというと、実は湯川村には、新潟の方からと猪苗代の方から冷たい空気が降りてきます。 冷たい空気っていうのは重たいので、山の方から下に降りるんですね。ちょうど湯川村付近に『冷気湖』っていう冷たい空気の湖ができるんです、冷たい空気の塊ですね。この冷たい空気が、阿賀川、旧湯川、せせらぎ川、この川の上で霧を発生させるんですね。それで湯川村は霧の都ということなんです。では、この霧がなぜ田んぼにいいのか、稲を育成するのにいいのかなんですけども、 霧の話題は後ほどお話します。
【斎藤】
次に、『湯川村は米どころ。その理由は地形にあった』 こちらです。会津盆地で標高が一番低くて多くの川が集まる場所で、昔は川が氾濫し、田んぼに適した粘土質の土壌が形成されるということを教育委員会の方は言っていました。まずは川と土についてですね。 村長、これ、どうですか?
【村長】
はい。いろいろとお話あったように、川が氾濫した際に良質な土壌を作ってくれたと思います。

【斎藤】
これは、このエリアが歴史的にも美味しいお米をつくる一つの要因になっていると思います。 そして朝昼の気温差です。さっき『霧の都』と言いましたけど、会津盆地の中でも湯川村は一番低い土地にあるので、朝がグッと冷え込むんですよね。ところが昼は気温がグーンと上がってきます、盆地地形らしく。この朝の低温でデンプンの消費が抑えられるということなんです。これは本当に農業をずっとやられている村長の前では、釈迦に説法になってたいへん恐縮なんですが、冷え込みがないとお米が寝ないから、どんどんどんどんデンプンをエネルギーとして消費してしまい、米が美味しくなくなるというお話を農家の方から聞きました。だから朝は気温が低ければ低いほど美味しいお米ができるという、そういうことみたいですね 。
【村長】
そうですね。 夜や朝は涼しくて昼間は暑くて。これがいいわけですが、昼間作ったそのデンプンや栄養素は、夜気温が高いとそこで消費してしまうということなので、川の冷気などがあって、朝晩の気温が抑えられ、デンプンなどが十分に蓄えられるということにつながっていると思いますね。
【斎藤】
だから、この猛暑の中でも、湯川村で美味しいお米が作られるのは、朝の気温の上昇というのを、冷たい川の冷気で下げてくれるという点が、非常に重要なんだと思いますね。
【斎藤】
まだ、続きがあります。しかも湯川村は、福島県で一番効率的に稲作ができる場所だったというのは、もう村長もご存知の通り、山がないんですよね?
【村長】
はい。村内に山はありません。
【斎藤】
山がなくて、村全体が平坦で肥沃です。ほ場整備率、100%ですか?
【村長】
はい、そうです。ほぼ100%。三反(3,000平米)が一枚の田んぼになったり、あとは大区画なやつで1ヘクタールという規模の田んぼもあります。
【斎藤】
これはちょっと言い過ぎかもしれませんが、湯川村全体が『一枚の田んぼ』みたいな状態ですよね?
【村長】
そうですね。傾斜がなく平坦な土地で、その表現は合っています。『一枚の田んぼ』という表現、私も今初めて聞いた言葉ですけど、今度使わせてもらっていいですか?(笑)
【斎藤】
ちょっと嬉しいかもしれない。どうぞ使ってください(笑)
【村長】
いや本当に『一枚の田んぼ』ですよ。湯川村は。
【斎藤】
だから田植えもしやすいし、そして収穫もしやすいということにつながっている。単位あたりの収穫量が福島県でずっと一番でしたよね?すごいですね。これ。
【村長】
一反あたりの収穫量が県で一番という年も多く、いつも上位ですね。
【斎藤】
それからちょっとこのデータなんですが、いやー、これは私驚きましたよ。村長、湯川村のお米を科学的に分析しちゃったんですね。
【村長】
はい、そうです。感覚的に美味しいだけではなく、科学的になぜ美味しいのかというのを福島大学の新田教授に協力していただき、分析していただきました。
※2023年 湯川産米を分析
【斎藤】
この分析結果を見ると、この表層部のところがハチの巣のようになっていて、『中間部は、糊化が進んだ多孔質構造と、糊化が進まないデンプンの構造が認められる部分もある。そして中心部は、あまり糊化が進まず細胞の構造が認められる部分と、糊化が進んでも細胞の構造が残った部分があった』とあります。これが、適度な粘りや旨味、そして弾力や歯ごたえもある理由なんですね。この分析結果はなかなかですね。
【村長】
この特徴が、食べた感じ、食味に影響していますね。
【斎藤】
科学的にも、その美味しさが証明されている湯川村のお米。ぜひたくさんの方に味わってほしいですね。
【斎藤】
ここからは、地球温暖化と農業という話題でお話しを伺っていきます。先ほど『昔は涼しかったよね』という村長のお話がありました。地球全体がとても暖まっていまして、福島県は、気象台のデータによると、この百年で平均1.5度気温が上がっています。これ実は全国の伸び率よりもちょっと高いです。120年前の福島県は、今の岩手県の気温位だったんですね。心配なのは温暖化が進行すると大雨が増えることです。実際に気象台のデータによると、東北地方では1時間に30ミリ以上の雨の年間発生数が昔の倍ぐらいになってきているそうです。大雨の災害が多くなっているということもあるんですが、湯川村でも農業への影響があるかと思います。
実は福島県がシミュレーションをしていて、そのデータをお借りしてお話しします。2040年前後、県内平均気温は2.1度、15年後には気温が上がってしまうとのことで、2090年前後には5.3度も上昇しちゃうというシミュレーション結果があります。じゃあこの2.1度の上昇って、福島県ではどれぐらいの感じなのかというと、今の東京並みの気温になる。そして5.3度上昇する2090年前後には、福島県が今の鹿児島並みの気温になってしまうわけです。
そうなると、稲作はどうなるのか。これも福島県が発表していますが、米の収量自体は増加するらしいんですよ。しかし、収量は増加するんだけど、暖冬による小雪、一方で夏は豪雨のリスクもある。そして、やはり高温障害。乳白化とか不稔米、胴割れの増加。一等米の比率の低下などが考えられるので、収量が増えるという経済効果よりも、品質的な損失の方が大きくなりそうなので、やはり温暖化対策や高温対策というのは念頭に置く必要があると思います。 そこで湯川村、この温暖化時代にどういうふうにお米作りをするのかを村長にお伺いしたいのですが、そこはどうでしょうか。
【村長】
はい。 やはりこれだけ温暖化してきて、この高温化が止められないような状況だというふうに思います。世界的に温暖化を止める努力をしているわけですが、なかなか厳しい状況であります。湯川村も、いま現在はコシヒカリを主に作付けしておりますが、以前にはササニシキの品種を中心にした時代もありました。品種は時代に合わせて変遷してきておりますので、これからはやはり高温耐性の品種での米づくりが必要と思います。福島県の方で開発しておりまして、おそらく令和10年の春からは、一般農家でも作付けできるだろうという見通しです。高温耐性の品種ですから、高温に対して収量が落ちない、食味の良さも確保されるような品種になることを期待しています。それらの品種をもって、各耕作地ごとの美味しい米づくりが進むのだろうと思います。やはり高温耐性の品種というのは、湯川村でも導入していかなければならないと考えております
【斎藤】
その品種改良も結構早く進んでいますよね。令和10年、2年後には新しい品種が出る。
【村長】
そうですね。これは県の方に聞いた話でありますが、今試験的に栽培しております、2年後には使える、作れるだろうというお話でしたね。
【斎藤】
あのー・・・、品種改良というと、一つちょっと心配なのは、今これだけ湯川村のお米が美味しいわけじゃないですか。品種改良したら『食味はどうなっちゃうの?』という心配もありますが。
【村長】
その、心配もありますね。だから今、県で作ったものが、良い食味であればありがたいなと願っています。しっかりと 美味しい品種にするとは言われておりますけども、美味しい米であってほしいと期待をしています。そんな心配がありつつも、高温化する環境では 対応できる品種に切り替えていかなければならないと思います。湯川村でも、『虹のきらめき』など、早くも高温耐性の品種で米を作っている人もおります。2018年頃から出てきた品種なんですけど、高温耐性の品種、そういうものをすでに導入している人もいる。 その品種の食味にも特徴があって、どんなおかずに合うとか、どんな食べ方すればよいのか等の情報も提供しながら、消費者には好きなお米を選んでいただく。だから一つの品種や、コシヒカリだけにこだわらない時代になってくるのだと思います。
【斎藤】
村長の味覚で、『これ、これだったらいけるな』という太鼓判を押して、お勧めしてほしいですね。
【村長】
そうですね。県で開発している品種ですが、その土地に合わせたいろんな作り方があると思います。湯川村は土壌がいい、水もいい、気象条件もいいということなので、新しい品種で、湯川村に合った米作りをすることが必要。どこで作っても同じ米ができるわけではないので、湯川村だから、『こんな風に作ってこの品種を美味しくできた』と、自信を持ってお出しできるようにしたいと思います。
【斎藤】
村長、この村の今後のビジョン。ここまででいろいろなビジョンは既にお聞きしたのですが、ずばり湯川村の未来はどうしましょうか?
【村長】
当然、いま人口減少社会ですので、人口を右肩上がりにしましょうというのは、これはなかなか難しいと思います。 できるだけ下がらないようにしていき、まず湯川村が存続できるように、持続可能な村であるように、いろいろな施策を実施していかないとならない。 今後の気象に合った農業もしていかなければならないし、若い世代が定住して『住んでよかった』と思ってもらえる村にしていくというのが一番です。いろいろな手を打って、豊かで希望の持てる湯川村を作っていきたいと考えております。
【斎藤】
今回、いろいろ湯川村のことを調べさせていただいたんですけれども、ほかの村や市町村よりも強みがたくさんあって羨ましいなと思いました。ぜひ、たくさん若い人たちが移住してきたり、あるいは、おじいちゃんおばあちゃんがずっと長生きできて、若い人たちと共生するような、楽しい村をつくってほしいなと思います。
【斎藤】
村長、最後に気象予報士の私になにか聞きたいことはありますか?
【村長】
そうですね。では、今年の夏の天気はどうでしょうか。暑くなりますか?それとも平年並みなのか、その辺をお聞きしたいと思います。
【斎藤】
村長、私、明日の予報はたまに外すんですけど、季節の移り変わりに関しては、外しません(笑)
今年はですね、エルニーニョ現象というのがポイントになってきます。エルニーニョ現象が発生するとですね、基本的に昔は冷夏になったんですけども、やはり今は地球温暖化が進行してですね、エルニーニョになっても涼しくならないですよね。おそらく今年は、天候不順になる可能性はあるのですが高温多湿です。この湯川村や喜多方市周辺というのは、実は線状降水帯のリスクがあります。一方で、新潟の下越の方から流れ込む降水帯にちょっと注意が必要なのかなと思います。あと、基本的には高温なので、お米の収量は確保できるのかなと思うのですが、大雨と高湿度、これによる病虫害の対策というのは、ちょっと頭の中に入れておいた方がいいのかなと思います。少し話が逸れますが、岩手県花巻の石鳥谷に、『たろし滝』というのがありまして、たろしとは『垂氷(たるひ)』という氷のことで、滝が凍ってつららになるんですよ。そのつららの胴回りの長さで、その年が豊作か凶作かを占うんですけれども、胴回りが太ければ太いほど豊作になるんですね。今年は5メートル20センチ、豊作と言っていました。とてもいい知らせです。ということで、湯川村も今年は豊作。斎藤恭紀、豊作予報は100パーセント豊作。これは外れないと思います(笑)
【村長】
はい、ありがとうございます。斎藤さんの豊作予報を信じて、今年も一生懸命農家の方々に美味しいお米を作っていただき、お米がお米が一番の湯川村をPRしていきたいと思います。
